あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメ感想】ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 #11 -感情をコントロールするということ-

 

記念すべきアニメ感想記事の第1号は、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」#11を取り上げたい。

これまでのラブライブ!シリーズとは一味違う本作。絵コンテ・演出を伊礼えりさん(恐らくTVアニメ本編では初)が手掛け、自分の観測範囲でも話題性の高かった話数だ。その要因は何なのか、個人的に気になったシーンなどをピックアップしていく。

本編は各種サイトで配信もされているので、是非観て欲しい。

 

 

【内容面】歩夢と侑のすれ違い

 

前話数でせつ菜が親友、もしくは以上の関係とも呼べる侑と抱き合う(ように見えた)場面に遭遇した歩夢。同好会がスクールアイドルフェスティバルの実現に向けて着々と準備が進める中、ひとり侑との関係性の在り方に揺らいでいた。

 

距離感の変化

歩夢目線で侑との身体的/心理的な距離感は刻一刻と変化しているように受け取れた。ここから場面単位でその変化を追っていく。

Aパート

 

 ①同好会ミーティング~会場選び

  身体= 心理=

   歩夢:多人数でも侑の隣に座る

   侑:歩夢(をはじめとしたメンバー)を気に掛ける

 ②バス停~他校とのミーティング

  身体=近⇒ 心理=中間

   歩夢:ミーティングには出席しないため、

      1人バス停に残される歩夢

   侑:他校から自分の夢に対する想いを聴く

 ③同好会ミーティング

  身体= 心理=中間⇒

   歩夢:侑からの問いに答えられず愛想笑い、

      侑とかすみのボディタッチを見つめる

   侑:会場選びに悩む、歩夢に意見を聞く

 ④ランニング

  身体=近⇒ 心理=中間⇒

   歩夢:侑に声を掛けることを躊躇う

   侑:せつ菜と合流し、歩夢に気付かずUターン(ゆうだけに)

 ⑤放課後~下校

  身体=遠⇒ 心理=中間⇒

   歩夢:侑を信じて待ち、

      2人きりの下校が叶う

   侑:歩夢の言葉を聞いて前進

 

 Bパート

 

 ①買い出し

  身体=近⇒ 心理=近⇒

   歩夢:せつ菜にあのことを聞こうとするも、

      侑がピアノを始めていた事実を知る

 ②歩夢の部屋

  身体= 心理=遠⇒

   歩夢:気が滅入ったところに届く侑からの着信

 ③侑の部屋

  身体=近⇒密接 心理=近⇒遠⇒中間⇒乖離

   歩夢:本音をぶつけるも、

      侑がせつ菜と特別な関係でないことを

      本人から聞いて安堵するも、

      自分の手の届かない場所へ行こうとすることを

      受け止められず押さえ込む

   侑:歩夢からの投げかけを即座に否定、

     自分のこの先を伝えようとするも遮られる

 

このように2人の距離感は近づいては離れるを繰り返していたことが分かる。この物語としての変化があってこその演出(後述参照)となる。

 

はじまりと約束

 

本話数を通して歩夢の行動に"重い"と感じた視聴者もいただろうが、改めて第1話を観ると前兆とも呼べる場面があったことに気付く。そもそもスクールアイドルの世界に足を踏み入れるきっかけとなったせつ菜"ちゃん"との出会い、夢中になれるものを見付け活き活きとした侑の様子に戸惑いを覚える歩夢、後の同好会メンバーに侑との会話を遮られる歩夢など..2人の関係性はこのときから変化し始めている。

そして、歩夢がスクールアイドルになりたいと決心したあの日。

歩夢『私の夢を一緒に見てくれる?』

侑『もちろん、いつだって私は歩夢の隣にいるよ』

スクールアイドルになった後のイメージを明確に描けていなかった歩夢に対して、夢の先を見据える侑。しかしながら侑は決して歩夢のことを蔑ろにしていた訳ではない。

この約束から今回のような歪みに繋がるとは全く検討もついていなかったが、どのような形で物語の結末を迎えるのか見届けたい。

 

 

【映像面】感情表現は表情だけじゃない

 

正面にいる目を細め口角を上げて真っ白な歯を覗かせる人を見て、「この人は泣いている」と感じる人はそうそういないだろう。「いや、そんなことはないだろ」と思ったあなたはその感性を大切にして欲しい。

視覚的に他者の感情は顔を構成する複数のパーツ(眉、目、口など)から総合的に判断する訳だが、何もそれに限った訳ではない。

 

 

標識

 

日常生活に溶け込むものでありながら、演出にも転用できるものに標識が挙げられる。

以下は本話数で登場した標識である。

 

指定方向外進行禁止

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登場するのは、歩夢と侑の下校中にスクールアイドルフェスティバルの会場選びを模索する場面。ここでは二股に分かれた矢印がポイントだろう。結論が出ていない侑の迷いの比喩であるが、直進をベストな道、左折をベターな道と捉えることもできる。

 

歩行者赤信号

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非常口

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あのラスト一連の演出に貢献した標識、これは歩夢の感情に直結している。せつ菜が知っていて自分が知らない侑の一面を受け止められず、踏み留まってしまった様子の表現。だが、ベッドに伏せた歩夢のスマホに届く一件の着信、追い詰められた歩夢が期待を胸に侑の部屋という安全地帯へ駆けつける様はまさしく避難のそれなのである。

 

 

カメラワーク

 

同じ場面でもその光景を映すカメラの動かし方で見え方が変わってくる場合がある。

 

一人称視点

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そのカメラの主への没入感を高める効果がある。ここでは歩夢のランニングで思わず侑の姿を目で追ってしまうシーン。他に用いられている場面があるので探してみて欲しい。

 

ブレ

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本来なら見づらさを誘発するブレも精神面の揺れ動きを演出することに転換可能だ。歩夢が鬼気迫る表情で侑に問い詰めるシーン、勢い付けるような振り向きから描いた作画に、縦方向のブレで爆発した感情をPAN(水平方向の移動)で相手へ投げつける様子が表現されている。さらに画面の切り替わりと共にそのブレを止めることで、侑が感情を受け止めた様子が伝わる。

歩夢からの暴投気味なボールを一切戸惑うことなく受け止められる侑...芯が強い。

 

構図

 

本話数では、下から映すローアングルや傾けたダッチアングルも目立っていた。

 

ローアングル 

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ダッチアングル

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空間を広く見せる他、キャラの感情の起伏を表現できる。本編でもスクールアイドルフェスティバルの会場選びや、生徒会に申請書を承認されて喜ぶメンバーのシーンに用いられていた。

 

対比

 

似たシチュエーションの場面を複数回見せ、そこに在る物事の違いを際立たせる。

 

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本編では空を映したり登場人物が見上げる場面が時折登場する。また、本作のED曲『NEO SKY, NEO MAP! 』にもある通り、自身の写し鏡のようなモチーフとして描かれている。虹を描くキャンパス。

毎日見上げる空の青さも季節ごと変わって決まりはないね

自由に描いてと誘われてるよ

 本話数では、侑から会場選びの意見を聞かれた際に答えられない=空を見られない歩夢と、先を見据える=空を見上げる侑が対比的に表現されていると考える。

 

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精神的に余裕が無くなり、侑の言葉を遮ってまでも同じ場所に留めようとする歩夢の心理状態の表れ。手だけなく足まで使うことで必死さが伝わってくる。

こればっかりは初めて観るタイプで驚かされた..。

 

その他

 

上記以外にもパスケースやスマホ、ベッド(因みに侑は第1話から分かるようにソファベッド派)などでも対比的な表現があるので探してみて欲しい。

 

演出の一貫性

 

かの新海誠監督は、時系列ごとで観客の感情をコントロールする指針としたグラフを作っているという。本話数でも同様のことがされているかは分かりかねるが、少なくとも抑揚のない平坦な線ではないはずである。

 

ここで重要なのは、上記の演出が本編の随所に散りばめられていることだと自分は考える。常時ではなく物語、あるいは登場人物の感情が動くタイミングで用いられている。

 

視聴者側からして、いきなり演出の凝った画面を突きつけられても戸惑いが生まれてしまう。そうならないよう徐々に目を慣らしていき、ピークの場面でちゃんと視聴者の感情が乗るようなコントロールが必要なのである。

 

「あれ?今回の話数はいつものと何だか雰囲気が違うぞ...」そうした良い意味での違和感を視聴者に感じ取らせることができたなら、もう制作側の思惑通りだろう。

 

現在のTV作品では作画監督のみならず、絵コンテ・演出においても複数人が担当することが珍しくない。人材やスケジュールなどの問題で作品の魅力を増す一手間を加えられない現場もある中、その一手間を惜しむことなく物語が動く重要な回で発揮できた意義は大きいと思う。

 

 

余談

 

元々、アニメの演出などに興味関心のある人からすれば、「そんなの見れば分かるでしょ」という内容だったと思われるが、それは当然ながら"見れば分かる人"の目線の話である。実際、とある知り合いにこの手の話をしても「えっ、そうなの」となることが割とあった。

 

なので本ブログの趣旨としては、これまでそうした何となくアニメを観ていた人が作画・演出に興味を持ついちきっかけとなるようにしたい。

 

そして当然ながら、今回の記事で挙げた内容もアニメの制作スタッフから演出意図の正解が公開されている訳では無い。

それでもアレコレこじつけて考察したいでしょ、だってオタクだもの。

 

 

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