あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメレビュー】BORUTO ED17 -次世代へのバトン-

今回は前回に引き続き、『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS- 』について、2021年7月クールEDの記事。

作り手の原作への理解と作家性が両立した素晴らしい映像。紺野大樹氏、やはり天才か...。

 


www.youtube.com

 

 

BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS- ED17

楽曲:PELICAN FANCLUB『Who are you?』

絵コンテ・演出・作画・背景・動画・仕上げ:紺野 大樹
デジタル彩色協力:古橋 聡

 

 

始めに

 

紺野大樹氏はシャフト出身で現在はフリーランスのアニメーター。BORUTOには過去に一度、OP4に原画での参加経験のみアリ。ただ、それは川野達朗氏が率いるアニメーションチーム「teamヤマヒツヂ」の一員としてである。対して今回は制作進行の佐藤愛美氏のからの声掛けで実現*1

近年では2019年にTV放送された『炎炎ノ消防隊』ED1、ED2や『約束のネバーランド Season2』EDでも絵コンテ・演出・作画・彩色・背景を務めた。BORUTO含めTVアニメ全体で、OPないしEDで絵コンテ・演出・作画(原画)を1人で担当するパターンは珍しくないが、彩色や背景まで手掛けるのは希。アニメーションのみならず美術にも精通したからこそ成せることである。

以下のFebriでは、そうした過去に手掛けたEDのメイキング記事が公開されているので要チェック。記事の内容や完成映像からも分かる通り、明確なコンセプトを持ちつつ1人で大部分を制作することによって、輪郭がぼやけずに洗練された映像に仕上がっている。止め画を多用しても視聴者が全く退屈しない緻密な画面と構成。静と動の使い分けが巧い。

febri.jp

 

楽曲は2018年にメジャーデビューした3人組ロックバンドのPELICAN FANCLUBが務める。NARUTOにお馴染みのKANA-BOONNICO Touches the Wallsと通ずるギターロック(と見せかけて表題曲以外はボーカルや楽器にエフェクトを多重にかけた癖が強いサウンドの曲もある)。

余談だが、PELICAN FANCLUBも『炎炎ノ消防隊』第2期のEDを担当している他、曲名がNICONARUTO疾風伝OP6『Broken Youth』が収録されたアルバム名と同じ『Who are you?』、MVの撮影場所がKANA-BOON『Fighter』と同じ福島県のヘレナ国際ホテル*2だったりとよくできた巡り合わせ。なお、9/1リリースの同表題曲のシングルにはNARUTO疾風伝OP16『シルエット』のカバー音源も収録されるとのこと。

歌詞には、本作を意識してか"ふたり"や"嵐"、"渦"などのワードが鏤められている。が、中々に抽象的な表現されているため、特定のシーンに当てはめたものではないのかもしれない。ただ、個人的には、"地図"は道標となる人と人の繋がりを"嵐"や"渦"は争いごとの比喩で、人は繋がりがあるからこそ傷付くことを繰り返しときに自分すら見失うが、失うことばかりではなく次へ繋がる命があることを歌っているという解釈。また、"心象風景"や"異次元"は九喇嘛やミナトがいた空間とも捉えられる。誕生したナルトと共に生きた九喇嘛のふたり*3、その行く末は...?

youtu.be

 

モチーフ演出

 

前置きが長くなってしまったが、ここからは実際の画面から掘り下げていく。

そもそもNARUTO血縁や繋がりを大切にしている作品でもある。このED17でもそれらを強く意識したような要素が随所に見られた。

 


"赤"

 

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まずは赤色をモチーフとした演出が目を引く。ナルトの母親クシナの髪や血、九喇嘛の眼、ペンキなどナルトの出自に深く関わるものばかり。身を挺して両親自らが流した"赤"と掬い上げる"赤"。明度の低い画面の中で鮮烈に映る色。

ナルトの孤独を生んだ一因でもある九喇嘛を起点に下から上方向へ切り替わる動きによって、演出意図を持たせつつ動の役割を果たしている一連。

 

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だが、切実な両親の想いも当時のナルトには伝わらない。血の繋がりはときに枷としてナルトを縛り付ける。自らの存在価値を示すためのペンキは、乱雑に自らを映す鏡へぶちまけられる。ナルトのアイデンティティを塗り潰す"赤"。お前は誰だ。

全編を通してキャラの表情はほとんど映さない作りだが、少ない動きと状態が移ろう背景を通して十分に感情が伝わってくる。敢えて隠すことで際立つものがある。

 

 

生命線

 

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キャラの姿がない背景のみのカットも特徴的なこのED。電線や血管、木の枝など広がり互いに絡み合う線と線。電気や血などの源を循環させる生命線

電線のカットは、クシナのカットの手前であることからして、マダラに扮したオビトが木の葉の里を襲撃する夜だろう。ここでの"赤"は写輪眼の色とも捉えられる。

また、本編でも幾度か描かれたナルトと九喇嘛が拳を合わせる描写。今回は袖のデザインからして現在の火影としてのナルトだが、消えた拳の行方は...。

 

生命のサイクル

 

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再生 帰れない それでいい

枯れては地に落ちる木の葉。それは命の終わりや別れをイメージさせる。しかし、季節が巡ればまた新緑の葉をつける。歌詞からも過去には戻れなくとも決して否定的ではないニュアンスが汲み取れる。

 

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いま君に会いにきた

やがてまた秋、冬と移り変わり葉を落とす。しかし、今では自分から続くボルトという次世代の生命がある。また木の葉は芽吹く。表情ではなく額当てを映すことで木の葉の存在がより強調される。

 

 

対比演出

 

先ほどの木の葉関連のシーンもそうだが、約90秒の短い尺の中で、似た構図の時間経過による対比が演出されている。

 

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砂のようなざらつきの空。前半での失うことが強調されたネガティブイメージから一転、ラストのサビからは本来の色を取り戻す。例え時は違えど同じ空を眺めていたのかもしれない。そんな"もしも"を思わせてくれる。

 

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自身の火影岩が中央に位置する構図。先代4代目の火影であり父親のミナトはナルトのそばで生きること*4ができずその場で立ち止まる。僅かに顔を向けるその背中からは哀愁が漂う。一方のナルトはそうでない、ボルトに歩み寄ることができる。

なお、未来に向けてであれば下手に歩くのが一般的な演出意図だがここでは上手。火影岩の並ぶ方向を意識してなのか*5、あるいはナルトの身の危険を予期してのことなのか果たして...。

 

 

原作既読観点の話

 

今回のED17は紛れもなくナルト目線の映像だが、何故BORUTOのこのタイミングで流れたかといえば、(以下、ネタバレのため反転)大筒木イッシキ戦での九喇嘛との別れを踏まえたものである他ない。新OPにも大筒木イッシキ戦、及び決着後のナルトを描写したカットがあるため、少なくともこの2クール(~2021/12)、さらにこのEDを考慮すれば最短1クール(~2021/9)で決着まで描かれる。つまり、原作の単行本最新14巻に追いつくため、このあとどうやって尺を稼ぐのか、作画回があるのかなど心配は尽きないが制作スタッフを信じたい。

 

 

最後に

 

これまでナルトの出生に焦点を当てた本編のエピソードやOPED映像は数あれど、そのどれにも当てはまらない画の緻密さと作家性。このEDを物語の大事な局面で観られたことはいちファンとして言葉にならない。

TVアニメのOPEDは、「○○が登場してない!」という一部の視聴者の意見を考慮してか、輪郭がぼやけた無難なキャラ紹介映像になりがち。特定のキャラやテーマに焦点を当てた構成は、長期シリーズのようにいくつもOPEDがある場合でないと中々お目にかかれないものである。その点、紺野氏が手掛ける映像は、1クール作品でも突き詰めたものを感じられる。次回作も楽しみにしたい。

 

 

なんとご本人に当記事を読んでいただきました。こちらこそ嬉しい限りです。ありがとうございます。

 

今回はこんなところで、それではまた。

 

 

©岸本斉史 スコット / 集英社テレビ東京ぴえろ

*1:https://twitter.com/konnotato/status/1414841546743025665?s=20

*2:MVやドラマの撮影場所として有名、あのKing Gnu『白日』MVもこの場所

*3:原作第644話にて九喇嘛を人扱いするセリフがある

*4:原作においてこの場所でナルトと共にいるシーンは存在しない

*5:因みに当のボルトは火影になる気はさらさらない