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アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメ】FGOはアニメに向いているのかという話

さてさて、今回は2015年7月リリースのスマホゲーム『Fate/Grand Order』(以下、FGO)のアニメ化に関して思うところをアレコレ書いた記事。かくいう自分も2016年4月頃から始めたプレイヤーの一人なので、ざっくりですがその目線で伝えられればなと。

 

 

 

概要

 

これまでのアニメ化

 

正確にはOPムービーやCMもあるが、長ったらしくなるためここでは割愛。

 

見て分かる通り、2016~2018年までは年末特番にて公開された短編のみで、2019年の『Fate/Grand Order ‐絶対魔獣戦線バビロニア‐』(以下、バビロニア)で初のTV化(全21話)を果たす。因みにこのバビロニアはゲームでの第7章に当たるエピソード。2016年『Fate/Grand Order -First Order-』は第1章ということで第2~5章はカットされた*1。ユーザアンケート等を基に人気エピソードを個別でアニメ化した形*2である。

個人的にこのやり方については英断だと思う。もちろん、全章に触れたからこそ得られる感動もあるのは間違いないが、それまでの道のりが長くなりすぎる。一から順にアニメ化していては完結まで何年掛かるか分からず、初見で着いて来られる視聴者もごく一部だろう。

 

アニメ化のハードル 

 

そんな訳でFGOはこれまで幾度もアニメ化されてきた。ただ、わざわざ記事にしたことから察しはつくと思うが、個人的にアニメ化の難易度が高いように感じる。ここではその3つの要因を挙げる。

  • キャラクターデザインの複雑さ
  • Fateであるが故の設定
  • アクションにおけるマスターの扱い方

 

①キャラクターデザインの複雑さ

 

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主にアニメーターにとってのハードル。

FGOに限らずソシャゲ全般で言えることだが、主要キャラクターに装飾が多い。画像のキャラ蘆屋道満は一例。基本的に会話パートでは数パターンかの動かない立ち絵で進行するため、映えさせる(さらに言えば有料アイテムの購買意欲をそそる)必要がある。ただ、恐らくアニメで動かすことは最優先にされていないため仕方ない一面ではある。

アニメ化にあたっては、キャラクターデザインの段階である程度簡素化はされるものの、根本的な変更はできないため線の多さは拭えない。線の量が増えるということは原画や作画監督、仕上げの作業工数が増えるだけでなく、特に原画にとってはパーツごとに揺れやディテールの変化を計算して描かないといけないということ。加えて左右非対称なデザインであればアニメーター泣かせであろう。場合によっては、増えた情報量により却って視聴者の視線が逸れるようなノイズにもなり得てしまう要素なのである。

 

 

Fateであるが故の設定

 

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主に脚本・絵コンテ・演出にとってのハードル。

Fateにおけるサーヴァントは世界各国の歴史上の神や人物、さらには無機物に至るものまでが現代に受肉する設定。stay/nightをはじめとした過去のFateシリーズのアニメと異なるのは、その逸話が物語の根幹に関わってしまうこと

というのもこれまでは武器や弱点の把握など、あくまで戦闘に関わるところが大部分を占めていた。が、FGOではそうもいかず、一種の舞台装置として物語を進行させる上で与えられた役割が逸話と絡む。そのため、前提知識として、まずはそのキャラの逸話を視聴者に伝える必要性が生じてしまう。作中でも度々、主人公「〇〇って?」⇒ ロマニやダヴィンチなどの解説キャラ「〇〇は~△△時代の~(キャラ解説)」という会話がされる。アニメでは画面内の情報で説明させることが難しいため、セリフをカットしづらく、物語のテンポを損ねる要因にもなってしまう。また、文体であれば能動的に自分のペースで読めるが、アニメではただ受動的に聞かされる形。当然、聞き慣れない単語ですんなり耳に入ってこない人もいるだろう。こちらも根本的な変更が難しい要素である。

 

③アクションにおけるマスターの扱い方

 

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こちらも主に脚本・絵コンテ・演出にとってのハードル。

サーヴァントを使役する存在であるマスター。そのマスターも作品・人物ごとに能力や特徴も異なるが、FGOにおいてはひょんなことから人類最後のマスターを担うことになってしまった数合わせの素人という立ち位置。過去のFateシリーズでは大半のマスターが主に対相手マスターの戦力として戦いに加わる(一部サーヴァントと直接戦える人物もいる)。対して、FGOのマスターは戦いの舞台が聖杯戦争ではないことから相手マスターが不在な上に自身で魔術は使用できないことから、魔力供給や礼装による回復といったサーヴァントへの後方支援がメイン。

アクションにおいては主に前線のサーヴァントに焦点が当たるため、同一画面上に立たせづらくマスターを映すためにはカットを跨ぐ必要が生じてしまう。また、後方支援もアクションのテンポを損ねる要因になり得ることから、扱いが難しい。実際、バビロニアではアクションの合間に令呪の使用やキャラ名を叫ぶためにマスター藤丸立香が画面に映る場面が度々見られた。また、令呪による強化の度合いも読み取り辛いため、結果として戦いへの貢献度が低く見えてしまっていた。

その点ソロモンでは、アニメオリジナルの礼装による一時的なサーヴァントの召喚描写が藤丸を映す動機付けとして上手く落とし込めていたように思う。

 

 

自分の考えるアニメ化の理想系

 

FGOのアニメ化は前述の3点のハードルに加えて、キャラクター数の多さや尺の都合での描写カットなど一筋縄ではいかない。それらの要素を根本的にクリアするのは現実的ではないため、個人的には以下の形式が望ましいと思う。

  • ゲーム内アニメ
  • イメージ映像
  • 補完的短編

 

①ゲーム内アニメ

 

その章をプレイしているプレイヤー向けであり、知識がある前提の作りができる。また、TVやCMと比べて決まった尺に対して映像を作るのではなく、見せたい映像に対して必要な尺を用意することができる。見せたい場面のみを短い尺でピックアップすることで、いわゆる作画回のような行き渡った作監修正や演出も幾分か実現しやすいだろう。因みにいわゆるイベントCG(スチル)は存在する。

 

 

②イメージ映像

 

以下の配信4周年記念映像のような、本編には描かれていないがこんな旅もあったかもしれないと思わせてくれるもの。曲に乗せればキャラのセリフを不要にできる。視聴者に想像を促すイメージ映像としての要素が強いため、基本的に描写不足も発生せずに済む。前提知識もさほど必要にならないため、ゲームをプレイしたことのない層にも興味を持つきっかけにしやすい。

ただ、企画的には配信〇周年のようなタイミングでないと実現は難しいと思われる。

 


www.youtube.com

 

③補完的短編

 

Fate/Grand Order -MOONLIGHT/LOSTROOM-』やバビロニア第0話のように、本編をより魅力的に見せるための別角度で描かれたオリジナルシナリオアニメ。既存プレイヤー向け。本来はTVや劇場版としてアニメ化された中で行うのが好ましいが、短編であることで新章リリースに合わせたタイミングで公開することが可能。

 

 

余談

 

個人的に現在アニメ化された中では、榎戸駿氏&坂詰嵩仁ディレクションのCMやPVの他、キャメロット後編、バビロニア第0、8、10、18話が特に良かったなと。特にCM、PV類が既存のやり方としてはベストのように思える。前述のようにセリフや前提知識を不要にでき、新規プレイヤー獲得も狙える。YouTube上に公開されているのもありがたいポイント。

榎戸氏と坂詰氏は、第3章CMから参加しているだけあって、作品の理解度が高いことが窺える。手掛けた映像はシンプルに作画が良いだけでなく、主題歌共々ゲームプレイ後に改めて意味が分かる重要シーンのぼやかし具合が秀逸。このまま第2部完結まで携わって欲しいところ。

 


www.youtube.com

reme-aniro9.hatenablog.com

 

 

最後に

 

第1部を終え、今後第1.5部や第2部のエピソードもアニメ化していくのか現時点で情報はない。ただ、次第に増えていくシナリオのボリューム、毎回のように登場する巨大ボスなどこれまで以上に映像化のハードルは高まっていく。ただでさえ直近で公開されたソロモンも多すぎるキャラ数を捌き切れておらず、消化不良な印象を受けてしまった。そのため、無理に全編アニメ化するのではなく、部分的に描いて欲しいところ。あとは根本的にスケジュールの関係で全章をアニメ化する頃にはゲームのサービスが終了している可能性も十分にあり得る。

アニメ化には少なからず基となった作品を販促する意味合いもあるため、視聴者に面白い!ゲームもプレイしたい!と思わせないことには意味がない。今後もアニメ化が継続されるようであれば、どうかアニメ視聴者とゲームプレイヤーの両方が納得のいく形で物語を紡がれることを願う。

 

今回はこんなところで、それではまた。

 

©TYPE-MOON / FGO PROJECT

*1:バビロニア第0話にて断片的な回想カットはある

*2:animate Timesの記事より https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1532850695