あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメレビュー】王様ランキングOP2

今回は『王様ランキング』第2クールのOPについて。山下清悟氏ディレクションの映像とVaundyのストリングスアレンジの楽曲が合わさりエモーショナルなものに。
原作未読の観点でのレビュー。

 

 

 

 

 

王様ランキング OP2

楽曲:Vaundy『裸の勇者』
絵コンテ・演出・撮影監督・編集:山下清
総作画監督:野崎あつこ、河毛雅妃
作画監督:村田理

 

始めに

 

山下清悟氏

 

まずは本題に入る前に山下清氏についてざっくり紹介。山下氏は所謂Web系*1に属し、原画のみならず撮影や仕上げといった本来であれば専門の方が手掛けるセクションまでマルチにこなせるアニメーター。近年は各種ソフトの普及やSNSなど発信の場が増えたことで、アニメーションMVを中心に多方面をこなせる個人作家が台頭してきているが、その先駆け的存在とも言えるのではないだろうか。

近年は短編のディレクションが中心。これまで手掛けてきたTV作品のOPは以下の通り。余談だが、『呪術廻戦』は山下氏の登壇したイベントに原作者の芥見下々氏が直々にコンタクト。オファーにより実現したものだったり。

  • NARUTO -ナルト- 疾風伝』OP13(2013):絵コンテ・演出・デジタル原画・デジタル動検・撮影
  • 双星の陰陽師』OP2(2016):絵コンテ・演出
  • 『呪術廻戦』OP1、OP2(2020~2021):絵コンテ・演出・3DCG・撮影・編集

また、山下氏がディレクションしたOPには以下のような共通点がある。

  • OP単体の明確なコンセプト
  • 作品の本編に由来したものと膨らませたイメージを織り交ぜる
  • 背景やプロップ、キャラの表情などから想像の余地を残した抽象的な画面
  • 主にオーバーラップ*2を用いて、1カットずつ異なるシーンを立て続けに映す
  • モチーフを用いた暗喩の演出


後ほど、関連した観点で今回のOPを見ていく。

 

Vaundy

 

今回の主題歌『裸の勇者』を担当したのはVaundy、2019年から活動開始した男性ソロのシンガーソングライターである。既に10を超えるタイアップを持っているが、アニメは今回が初。ロックサウンドにストリングスのアレンジ、ときには消えてしまいそうな強弱のある歌声がドラマチックに作品を彩る楽曲。

 

youtu.be

耳は聞こえちゃいない だが勇者は今
力は要らない 身に任して
影は迫る"お前はなんだ"と

 

楽曲名は童話『裸の王様』に準えたものだと思われる。馬鹿の目には見えない布で織られたという偽りの衣装を着た王様。周囲は裸にしか見えないその姿を指摘できず、王様はそのままパレードに繰り出すというあらすじ。
ここでは単に勇者=ボッジ、影=カゲという訳ではないのがコメントからも察せられる。「耳は聞こえちゃいない」もボッジの難聴のみを指すのではなく、己の信念から聞く耳を持たないというニュアンスも含まれていると考える。また、前述の『裸の王様』において王様が裸であることを指摘する子供が影に該当。己が知らずに愛も呪いも抱え込んでしまった勇者へ核心を突く存在。ときには寄り添い、ときには陰りをもたらす。

 

ボッジを中心としたキャラクターたちが抱えている、それぞれの形で「善」であろうとする信念のようなものをうまく楽曲にも取り込めたらと思っていたなかで、この曲が生まれました。 番組公式サイトのコメント(https://osama-ranking.com/music/より

 

そしてVaundyは、作詞・作曲・編曲に留まらず、アートワークのデザインや映像のディレクションも手掛けるマルチアーティスト。そんな在り方が山下氏と重なるのも相乗効果を生んでいるOPなのである。

 

 

コンセプト

 

アニメのOPには冒頭に流れる映像として、物語の要約、作品の魅力を伝える、興味を持って貰えるきっかけ作りといった役割が大まかにある。それらに留まらず、作品の内容を膨らませたコンセプトから単体で観ても映像的な面白みもあるのが山下氏ディレクションのOPである。

  • NARUTO -ナルト- 疾風伝』OP13:"憎しみの連鎖を断つ"、"希望のリレー"、"死後の愛"など*3
  • 『呪術廻戦』OP1:主人公虎杖の状況、廻る*4
  • 『呪術廻戦』OP2:弔い*5

 

今回の『王様ランキング』OP2に関しては、まだ明言はされていない。自分の想像ではあるが、主人公のボッジに限らず、自身を脅かす影・闇からの救いや愛情がメインにあるように思う。これらは以降も掘り下げていく。

 

 

影・闇からの救い

 

今回のOPでは、影や闇など暗がりが印象的なシーンが度々映る。

 

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冒頭の影遊び。シルエットからして遊んでいるのはボッジとカゲの2人。影の形は、ボッジ:蝶 ⇒ カゲ:馬に乗った兵士 ⇒ ボッジ:剣 or 槍? ⇒ カゲ:王冠 ⇒ ボッジ:自身 と順に変化。平和を脅かす敵を倒して王様になるというストーリー。
蝶は国や宗教によっても異なるシンボルだが、生と死、復活、変化などといった意味深なものも。

 

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冒頭から一転、影中で佇む一人ぼっちのボッジとカゲ。他人から見向きされないネガティブイメージ。シンプルで記号的なキャラクターデザインのおかげで、引きの画面でもキャラの感情が伝わりやすい。

 

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サビ前、地面で粉々となった鏡を灯りで照らすボッジ。暗がりにいる存在を照らす(気付ける)側の人物である人となりが伝わる。王様としての素質。
山下氏がディレクションしたり担当した原画のシーンには、灯篭などの暖色系の灯りやホタルが登場することもあり、それらのイメージとも重なってエモーショナル。

この後には、破片が宙を舞い元の形に戻り、ミランジョが微笑むカット。曲調の変わり目のスイッチとして、ボッジとミランジョの邂逅が機能する。

 

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ラストシーン、序盤の影中から続く描写。ボッジとカゲの出会う夜明け。終わりから本編の始まりに繋がる。このラストカットを強調するためか、ボッジとカゲが同じ画面内に映るカットは他に無い。
ということで、映像内において時系列はシャッフルされており、恐らく2、3カット目 ⇒ ラスト ⇒ 冒頭 ⇒ サビ前といった順だろう。

他にも幽閉されたダイダやミランジョの視界を遮るカットなど、闇を強調させるものもある。その闇は降りかかった呪いでもあり、そこから救い出すために戦う。

 

 

カット繋ぎ・視線誘導

 

先に挙げた山下氏の特徴であるシーンの連続。今回はこれまで手掛けたものよりも、キャラの視線に合わせた視線誘導が特徴的。それは楽曲の持つ、敵味方という立場の違いはあれど共通して皆が誰かを想っている、戦っているというメッセージ性に沿った見せ方なのではないだろうか。

 

①疑似集中線

 

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ボッスが木を高圧縮して作り出したダイアモンド。黒背景に加えて手の汚れや残りカスが集中線のような役割を果たすことで、自然と画面中央へ目がいく。

 

 

②視線のリレー

 

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直前のデスハーに合わせてキャラの顔が正面から右方向 ⇒ 左方向 ⇒ 右方向 ⇒ 正面 と1カットずつ切り替わる。小刻みな切り替わりでも目で追うことができる。

 

 

③キャラの視線+ポージング+カメラワーク

 

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例え、血が繋がっていなくとも種が異なろうとも他者から与えられる愛情。
キャラのポージングや向ける視線、カメラワークによって、シームレスにカットが切り替わる。


③-1 ダイダと鏡(ミランジョ)

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視点は、まず明度の高い照明にいき、右方向へのパンに連られてダイダ、鏡、そして画面中央に戻る。


③-2 ベビンとミツマタ

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③-1で視点がいった中央に位置するキャラ。③-1のダイダと同様に微笑みの表情。カット尻でミツマタの頭の一つが上方向に向く。

 

③-3 我が子を抱き寄せるカゲの母親

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③-2で閉じたベビンの口に続けて閉じたカゲの目。加えて、③-2でのミツマタの動きと合わせて持ち上げられているカゲ。その後の抱き寄せる動作により、視点は中心に向けられる。

 

③-4 ボッジを抱きしめるヒリング

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③-3から続く、閉じられた目と抱きしめるポージング。この後に別カットを挟んでラストシーンへと繋がる。

 

 

縦軸

 

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ボッジが持つ幅の狭い刃の剣を中心に配置することで縦の動きを印象付ける。加えて、目を閉じたことでの情報量の減少やホワイトアウトによって、次カットのカメラワークへの違和感を無くす。
歌詞の「力が」の"ち"と"か"との音ハメのためか、2度も登場するデスパーはちょっと笑ってしまう。

 

 

その他、シーン別

 

足元に流れる血

 

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ボッジ?ダイダ?の足元に流れる大量の血(設定資料上、2人の服装の色は異なるのだが、画面の明度により判別し辛い)。直前のカットでは笑顔が映るが、一転、画面ブレと相まって不穏さをイメージさせる描写。カット尻には左上部にフレームインするものがあるが意味することは...。
今回のような地に血が飛び散る描写は、過去の山下氏ディレクションの映像でも見られる。元々あるものに対して浸食する異物や悪意のイメージとも捉えられる。合間に差し込むカットとして、画面の情報量を抑えつつメリハリがつく。

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ボッジを抱きしめるヒリング

 

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合間に別カットを挟んで続くボッジを抱きしめるヒリングのシーン。後のカットでは、ボッジに主体が移るため、ヒリングの顔は隠れている。それでも窺えるヒリングの微笑みからは、「あなたはもう大丈夫」というような信頼感が伝わる。

 

 

最後に

 

原作未読のため、本編の内容と絡めた話はあまりできなかったが、思わず本編を観たくなるOPだったのは間違い無い。
ミドルテンポで行進する第1クールのOPが起承に該当するものであれば、今回は転結に当たるような緩急のある映像と楽曲。終盤の主観で広い世界を見せるシークエンスも、冒険要素のある物語とマッチしている。90秒尺のセリフの無い映像であっても、コンセプトとルックによって一冊の絵本を読み終えたような感覚を味わえた。

『王様ランキング』第2クールの本編、そして今後の山下氏ディレクションOPも楽しみに待ちたい。

今回はこんなところで、それではまた。

 

©十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
©岸本斉史 スコット / 集英社テレビ東京ぴえろ

*1:大まかにWeb上での活動からスカウトされ業界入りしたデジタルツールを駆使する人物を指す

*2:2つの映像をフェードアウトとフェードインで繋ぐ手法

*3:山下清悟 演出集』より""内を引用

*4:インタビュー動画(https://twitter.com/Crunchyroll/status/1471178240236703746?s=20)より

*5:注釈3と同様