2026年4月より放送開始された『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』。公式から「各話でクリエイターの個性を前面に出した映像」というコンセプトが明示されたが、前半話数の時点で既に一般アニメファンにも分かるレベルで体現。
これまでの話数もそれぞれ別の魅力があったが、今回は特に好みだった#04について、主に映像面に焦点を当て、要素ごとに分類しながらどんな狙いがあったのかレビューしていく。
なお、挙げるのはほぼアニメオリジナル要素である。
上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花 #04
絵コンテ:戸澤俊太郎
演出:牧野秀則
作画監督: 井川典恵
制作スタッフ
絵コンテは本作で副監督を務める戸澤俊太郎氏。
ソワネ元請作品では初参加。
過去に戸澤氏が単独で絵コンテを担当した回は以下の通り。
・『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』#08(2021年)
・『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(第2期)』#05(2022年)
・『アンデッドアンラック』#04(2023年)
大胆なレイアウト、カメラのレンズ表現やライティングが特徴的である。
過去の参加作品やX上での発言から、山田尚子氏、実相寺昭雄氏、シャフト作品辺りからの影響が窺える。
#上伊那ぼたん 4話、ありがとうございました。
— 戸澤 俊太郎 (@wissen77) 2026年5月1日
演出は牧野秀則氏。
ソワネ元請作品では『mono』#08(2025年)で絵コンテ・演出を担当。戸澤氏とのタッグは初。
本職はアニメーターであり、『ヤマノススメ サードシーズン』#07(2018年)などに原画で参加。前述の山田尚子氏繫がりでは『平家物語』#03(2022年)と『きみの色』(2024年)でも原画で参加した。
上伊那ぼたん4話演出担当していました!
— まきの (@makino_728) 2026年5月1日
関わった全てのスタッフの方々、本当にお疲れ様でしたー!!🙇🙇🙇
#上伊那ぼたん
作画監督は井川典恵氏。ソワネ元請作品として本作が初参加。OPにも原画で参加している。
『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』(2023年)でアニメーションキャラクターデザイン、『だんでらいおん』(2026年)でメインアニメーター(共同)を担当。
なお、これまでの話数と同様、昨今では珍しくなってきた単独での作画監督である。
/⋰
— ソワネ (@studio_soigne) 2026年5月1日
上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花
ご視聴ありがとうございました!
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第4話作画監督の井川典恵さんより
素敵なイラストいただきました🌸
5月8日(金)24時より、第5話放送📺
引き続き、ご視聴お楽しみに.ᐟ.ᐟ#上伊那ぼたん pic.twitter.com/wug5eAt4HP
構図・レイアウト
全編を通して、映す対象が明確であり、寄り引きのメリハリもある。
会話劇がメインの本作において、基本的に切り返しとしてキャラが前カットと被らないレイアウトとなっている*1。重要シーンではキャラを中央に配置し、真正面から映す。
単に画のバリエーションを持たせるだけでなく、演出的な側面も大きい。
時折見られる攻めた画面は、戸澤氏が『ウルトラマン』シリーズを愛好しており、いわゆる実相寺アングルから影響を受けているのかもしれない。
体の一部分を切ったレイアウト
キャラ単体を見せたい場合であっても、敢えて体の一部分を切りフレーム外にすることで、フレーム内に残った部分を強調させる。

キャラの口元を切ったレイアウト。キャラの視線を強調させる。
このとき、視線の先に何があるかで受ける印象が変わってくる。視線の先に相手がいない、かつフレーム内にスペースがあれば外側への意識・ポジティブに、逆にスペースがなければ内側への意識・ネガティブに受け取られる。
視線の先に相手がいない場合の動きは、心理学的な要素も絡めているかもしれない。
かなでのカットでは視聴者側から見て左上に視線が向けられているため、ぼたんの「協力すればクリアできますよ」の言葉からゲームクリアの想像を膨らませている様子が窺える。
やえかのカットでは、あかねのペディキュアがぼたんに褒められた際にやえかが視線を右下に逸らす。やえか自身も同じペディキュアを塗っていることに対する内側への意識が向けられる。

キャラの目線を切ったレイアウト。キャラの顔下半分を強調させる。また、台詞に意識を向けさせる。
感情を読み取りやすい目や眉の情報が省かれることに加えて、カットによっては浅い被写界深度にすることでシリアスな雰囲気が強まっている。
Bパート始めのあかねのカットは、汗や水滴を映して梅雨のじめっとした様子をアップで映すと共に、場面転換としてインパクトを持たせている。

キャラの目元のクローズアップ。より目の存在を強調させる。
ぼたんがやえかのペディキュアがあかねと同じであると気付いたシーンでは、見ている対象を瞳に映している。クローズアップなら瞳の中の像も見えやすい。
クライマックスでのぼたんのカットでは、僅かな手振れのカメラワークと浅い被写界深度によって、ドラマチックにキャラの内面に焦点を当てる。山田尚子氏からの影響が窺える見せ方。
キャラの反応を強調する構図・レイアウト
前述のような体の一部分をアップにせずとも、シーンの流れを断ち切るように独特な画を挿し込むことで、キャラの反応を強調させる。

やえかが泣き出すという予想外の反応に驚くいぶき。これまで使用されなかった真アオリで驚く様子を強調。その後はロングショットで客観的に見せる。

あかねと同じ色のペディキュアを塗っていることをぼたんに気付かれて動揺するやえか。これまで使用されなかったカメラを真横に倒した構図で動揺を強調。その後はキャラと傘による上下の配置と画面の明るさで上下関係を演出する(ぼたんに悪気はない)。

予想外のお酒の登場に驚くいぶき。画面手前に大きく瓶ビールを配置し、いぶきよりも画面を大きく占める。お酒の存在を強調すると共に、思い掛けないやえかの気遣いで端へ追い込まれるいぶきの姿。
舞台を大きく映すレイアウト
広角で舞台の存在が際立つレイアウト。
本編はほぼFIXだが、パースがついた遠近感のある画によって視聴者の視線に動きが生まれる。

一点透視の構図。消失点にいるキャラを客観的に見せるロングショット。
キャラの表情は省略。
特定の舞台にいるキャラという印象を受ける。

二点透視、三点透視の構図。観光としてキャラより舞台をメインに見せる。
ロングショットでは、同じくキャラの表情は省略。
鏡を利用したレイアウト
車内や部屋内にある鏡にキャラを映したレイアウト。
場合によっては、正面や横からカメラを向けると複数人がフレーム内に映り込んでしまうシチュエーションでも一人に絞り込める。
反面、鏡の配置を考慮しないと再現不可能な画になる。

広くない車や部屋の内部でもキャラを複数人映したり、画のレパートリーを増やせる。
極端にカメラが寄らずとも見せたい対象(キャラ・プロップ)が絞り込めている。
フレーム内フレーム
建物の一部など遮蔽物を利用して疑似的なフレームを作る。自然と境界線が生まれ、キャラの関係性を演出できる。

ぼたんといぶきに関するフレーム内フレーム。三峯神社でのエピソードで使用される。
始めはいぶきに追いかける形でぼたんがいぶきのいるフレームに入る。
縁結びの札の話が挙がると、いぶきがあまり興味を示さず境界線で分かれてしまうが、ぼたんの赤裸々な言葉に応えるようにいぶきから境界線を越える。

かなでといぶきに関するフレーム内フレーム。こちらはエピソードを跨いで使用。
車の運転で良いところを見せようとしたが叶わない。過去にバルで見掛けた際には声を掛けることができなかった。
ただ、白い布団に関しては、ぼたんより先に取り込むことに成功はしている。
ぼたんと違い、最後まで境界線を越えることがない。
同ポジション
同じカメラポジションの画をカットを跨いで使用する。基本的には背景素材を節約するために使用されることが多い。対比の演出に利用できる。

ゲームで遊ぶいぶきとぼたん。お酒を機に、次第に2人の距離が近づいていき、体が触れる。また、缶の焼酎ハイボールをキャラに見立て、最後にはぼたんから「チュー」する。
肩から上を切ったレイアウトであることからも、体とお酒をメインに見せたいことが伝わる。
演出
比喩表現
キャラを色やプロップに見立て、状態や関係性を暗に表現する。

本話数では、概ね以下の通りのイメージカラーだと思われる。
青 = かなで
白 = いぶき
ピンク = ぼたん
始めはかなでの傍にいたいぶきが、ぼたんの入寮をきっかけに離れていく。今では2人の仲睦まじい姿を眺めることしかできない。標本となり飛べない青い蝶。

寄り添うように並ぶプロップ。
縁結びの札、ゲーム機のコントローラー、缶の焼酎ハイボールはぼたん側から触れるように映る。
ただ、縁結びの札に関しては、書いてある名前はぼたんだが、書いたのはいぶきである。また、直前カットではいぶきから手を伸ばしてきているため、関係性はどちらとも受け取れる。
白い蝶と青い蝶が並ぶ姿は作り物のオブジェ。
ゲームとお酒を通じて仲を深めたかなでとぼたん、その2人が身を寄せて眠る姿に微笑み毛布を掛けるいぶき。今後の3人の関係性は如何に。
個人的には『けいおん!』においてバッグを並べたシーンを想起させる演出で好み。
カメラのレンズ表現・ライティング
過去の戸澤氏の担当話数と同様、カメラのレンズ表現やライティングにも拘りが見える。戸澤氏自身がカメラを所持している*2ことからインプットがある。

ぼたんといぶきのエピソードでは、天候や時間帯の変化により、画面の色合いが次第に明るくなる。ポジティブな表現。
また、フレアやゴーストのレンズ表現が合わさることでよりドラマチックなものに。
ライティングでは、影中=ネガティブとして捉え、影中から出るかで演出として機能する。
リズミカルなカット割り
類似性のあるカットや短尺のカットを繰り返し使用することで、映像にテンポが生まれる。また、シーンやシークエンスの区切りが明確になる。

アバン。車のマフラー、ハンドル、シフトレバーと車の部品、かつ丸い形状という繫がりがある3カットから登場キャラが全員映る引きの画というカット割り。

Bパート頭。コーヒーを飲むあかねの右配置、左配置、中央配置の3カットから引きの画というカット割り。
3カット目は視線の先にスペースがあり、4カット目への引き画の繫がりが自然。
キャプチャ単体では一見コーヒーと分かりにくいが、映像ではストローですするSEがあり十分伝わる。

作画素材を兼用した短尺カット。場面転換に使用される。兼用で同じような画がパッと映ることでテンポが生まれる。
かなでのライターのカットに関しては、待っていてもいぶきが来なかったネガティブな対比の演出となっている。対比は火を点けたタバコと雨で火が消えるタバコでもできたが、そもそも火すら点かないのが物悲しい。
体の一部を映した短尺の1カットアクションによるテンポを生む方法はシャフト作品に通じるものがある。
エピソード間の繋ぎ
原作では1話完結のエピソード3話数分(#10~12)だが、アニメ化に当たってアニメオリジナル要素によって、いち話数に上手くまとめている。
その一つとして、背景に紫陽花が採用されている。
原作では三峯神社のエピソードで「5月」、ゲームのエピソードで「夕立」、川越のエピソードで「梅雨」という時期にまつわるワードが登場するが、アニメではその内「梅雨」のみ登場。紫陽花は早くて5月に咲き始める花であり、梅雨のイメージとして一般化されているため、相応しい存在。また、夕立は梅雨明け以降の現象であり、原作通りでは時系列が変わってくるため、アニメでは劇中の時期は梅雨前~際中に設定されている。
他には本レビューで挙げている通り、映像面で統一性を持たせている。
あとは、原作由来で、ぼたんの声を機にスマホの操作を止めるいぶきがエピソードを跨いで描かれる(偶然かもしれないが)。
作画
演出面に限らず作画面の見所も多い。
個人的に気に入ったものを中心に取り上げる。
なお、一部制作素材はソワネ公式HPで公開中。
手足のアップ


手元や足元をアップで映した芝居作画。何気ない仕草がキャラの実在感を強める。
アニメオリジナル描写であり、山田尚子氏から影響が窺える。手を広げたぼたんのポージングもそれらしい。
力を入れないときは指先が伸びきらないのが自然。
映り込み

松本元気氏の担当パート。
湾曲した銅製マグに反射するいぶきの顔。顔を多方向に動かすことで難易度が高めだが、違和感なく作画されている。
元々丸みのあるデザインのキャラのため、より可愛らしい。

渡部尭皓氏の担当パート。
お酒を飲むとしゃっくりが出てしまう体質を知らないやえかを前に生殺しにされたいぶき。かき上げた髪が一部戻ってしまうが気にせずビールを勢いよく口へ。困り眉に閉じた目。待ちわびた様子が伝わる2コマの芝居作画。
ほつれた髪や流れる汗で艶もあり、クライマックスに向けて助走をつける。
1コマ作画
本作に限らず、日本のアニメでは基本は2コマ、3コマ打ちで作画される。
より滑らかに動いて見える1コマ打ちを重要なシーンで使用することで、シーンの存在がより際立つ。


1コマ打ちで作画された手を伸ばすカット。影中から外へ出る。
体の一部分をアップで映しライティングを利用したピンポイントな使い方は、シャフト作品を彷彿とさせる。

因みにぼたんが手を伸ばすカットはもう一つあるが、こちらはやえかに余計な一言を言ってしまったというネガティブな心情。動作自体は同じでもこちらは3コマ打ちであり、シーンに応じて使い分けされていることが分かる。

ミャン氏の担当パート。
放送前PVにも使用されたカット。前髪が持ち上がりおでこが見えるのが良い。
目の前に花びらが落ちてくるが、目線は逸らさずいぶきを向いているのがより真剣な表情に映る。
ヤマノススメ、もといサケノススメ?
終わりに作画や演出とは別の話題。
ついに『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』と『ヤマノススメ』が出会う。

原作では、いぶきのイメージでハイボールとチューハイの違いが解説されたが、アニメでは公認で『ヤマノススメ』のひなたとあおいによるゆっくり解説に改変。担当声優も本家同様。
EDのクレジットには、『ヤマノススメ』の原作者であるしろ先生、出版社のアース・スター エンターテイメント、『ヤマノススメ Next Summit』製作委員会が載っている。
かなで「何かこの子...」
ぼたん「いぶきさんと似てますね」
かなで「そうよね」
しまいには、あおいといぶきの見た目が似ているというメタ発言まで。
戸澤さんから「ここは自由にやっていいよ」って言われて、ダメもとで提案したらそのまま関係各所からokが出ました!!#上伊那ぼたん https://t.co/jZHEgd7rkf
— まきの (@makino_728) 2026年5月1日
しろ先生、アーススターエンターテイメント様、ヤマノススメ Next Summit 製作委員会様には格別のご配慮をいただき、ありがとうございます。
— 塀(HEY)@アニメ放送中🎉 (@tonarinohey) 2026年5月1日
スタッフからこの演出を聞いたとき「そんな馬鹿な」と耳を疑いました。ヤマノススメがなければこの作品はありませんでした。#上伊那ぼたん
因みに本作(特に原作者の塀先生)、本作の制作会社であるソワネ、『ヤマノススメ』の関係性は以下で語られている。
最後に
今回挙げた一つひとつの演出自体は真新しい訳ではない。
本話数で特筆すべき点は、作品に合わせてそれらを組み合わせ、細部まで徹底して意識が向けられた完成度の高さである。
これまでの戸澤氏が担当した回では、リソース的に使えなかったであろう作画の良さも噛み合っている。
余談だが、david productionに参加していた戸澤氏と紺野大樹氏。前話数#03ではシャフト演出に影響を受けた銀さん氏が担当。山田尚子氏からの影響を受けている戸澤氏と本作OPを手掛けたちな氏と、意図せずか『ヤマノススメ』以外でも繫がりが見えてくるところがアニメの面白いところだなと感じる。
全体の3分の1を終えた時点でも話題沸騰な本作。今後はどんな映像で楽しませてくれるのか続きが待ち遠しい。
戸澤氏の次の担当回にも期待したい。
今回はこんなところで。
それではまた。