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アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

呪術廻戦 原作者視聴コメント解説 - 芥見先生 IS SPECIAL -

2023年7月から放送が開始された『呪術廻戦』第2期。
今回は本編とは別角度からアニメの制作側に興味を持って欲しいなという記事。

 

 

はじめに

 

放送後にX(旧Twitter)の公式アカウントから発信される原作者の芥見下々先生からのコメントが毎回数万リポスト・いいねと大反響である。
なのだが、引用やリポストを見る限り、一般視聴者からはアニメ制作関連のコメントについては触れられていない。ということで、この記事を機にアニメーションの制作側に興味を持って欲しいというのが趣旨である。
※専門用語については、明確な定義が存在しないものも含まれるため、ざっくりとこんな意味なんだと受け取っていただければなと

芥見下々先生は作画への造詣が深く、かつて山下清氏が登壇したイベントにも参加し、そこでのやり取りをきっかけに『呪術廻戦』第1期のOPのディレクションが実現したというエピソードがあるほどである。また、公式ファンブックにおいても、何人ものアニメーター名が挙げられている。

 

作者コメント

 

ここからは話数(通算ではなく第2期としての話数)ごとでコメントに登場した人物名や用語について触れていく。コメントを読んだ通りのものは割愛。

 

#3

 

 

芥見も影響受けまくっている田中感のある煙
もしかして密着マルチって死語?


 

"田中"とは田中宏紀氏を指していると思われる。本作において、絵コンテ・演出では第1期#13、原画では第1期#4、13、20、24、第2期#18の他、劇場版で作画監督、ゲーム『ファントムパレード』OPでは作画監督と原画を担当するなど多数手掛けている。
また、"密着マルチ"とは、手前と奥と離れた位置にある背景などの素材を引く(スライド)する際に、引く速度を手前側と奥側で変えることで空間の奥行きを出す手法のこと。新幹線や高速道路を走行する自動車の窓から見た景色をイメージするとわかりやすいだろう。
主にこの手法は背景に対して用いられるが、田中氏は煙に用いている。因みに素材そのものを動かしているため、消えることはあっても形状自体は変化しない。
追記 上GIF(五条と煙)は加藤滉介氏のパートとのこと。*1

WEB系(死語)世代の琴線に触れる五条
渡辺さん?


"WEB系"とはネットでの活動からアニメーターに抜擢されたのが始まり*2。既存のアニメ制作フローに囚われないアプローチ、動きや実写映像的な時間感覚を重視したデジタル作画でのアニメーションが特徴。言葉自体はWEBアニメスタイルでの今石洋之氏の発言が発祥とされている。WEB系に属するアニメーターとして、りょーちも氏や沓名健一氏、山下清悟氏などが挙げられ、その功績は後のアニメーターにも影響を与えている。なお、死語かどうかは議論の余地がある。

animestyle.jp




"渡辺さん"とは渡邊啓一郎氏のこと。第1期に引き続き第2期でも参加しており、第2期ではメインアニメーターを務めている。投稿には五条の画が載っているが、渡邊氏の担当パートは当たっている。この他に第2期ではOPのサビでのアクション、#15では甚爾のOP明けアクションの原画を手掛けた。独特なフォルムのエフェクトに流体的なアクション描写で存在感抜群である。前述のWEB系の流れを汲んでいる一人。

youtu.be

 

 

#4

 

 

ブ・・・ブラーだ!!
とりあえずボカしとけ!!

"ブラー"とは画面をぼかす処理のこと。アクションシーンにおいて、躍動感を出す際などに使われる。なお、原画の後工程である撮影処理で行われるため、処理が掛かる元の画からぼやけている訳ではない。

 

AEを触ってみるも何も分からない芥見

"AE"とはAdobe After Effectsのこと。Adobe社が提供している映像制作ソフトであり、エフェクト素材の作成や映像との合成が行える。実際のアニメ制作現場では主に撮影の工程で使用されており、作画やCG、背景といった各素材を合成した上に光の処理などを乗せる。

 

 

#5

 

 

もちろんベテランの方も!!
森久司さん
大ファンだからうれしー!!


 

森久司
氏は本作には今回が初参加。アニメーター歴は30年以上のベテラン。村を襲った夏油が青い炎に包まれた呪霊といるシーンを担当した他、#17では魔虚羅の登場シーンを担当している。平面的な破片や鉛筆で描いたようなタッチ線、ケレン味のある表情やポージングなどが特徴。
本作以外では近年の劇場版コナンシリーズや『範馬刃牙』(2021年、2023年)などでアクションシーンを手掛けている。また、『チェンソーマン』(2022年)では本作の監督である御所園翔太氏が絵コンテ・演出を務めた#8の原画にも参加しているため、本作にはその縁があっての参加なのかもしれない。

youtu.be

 

モブも作画だったね


 

繁華街など画面内に大勢のモブが映る群衆シーンではモブが3DCGで作られることも少なくないが*3、本話数では作画で描かれていた*4。3DCGの技術が発達したとはいえ、その作り込みや背景、撮影処理によっては作画のキャラと同画面内に存在した際に目立ってしまう。
モブキャラの描かれ方は作品・話数によって表情や服装の省略具合が異なっているので見比べてみると面白いかもしれない。メインキャラの存在感が薄れないように、線量を抑えたり目立つ色を使っていなかったりと制作側の工夫が見えてくるはず。

 

 

#6

 

 

やたらと作画の良い作中作(ミミズ)を見ると
かんなぎ」の竹内さんの仕事とか思い出しますね!!

 

 


かんなぎ』(2008年)#7のEDのこと。竹内哲也氏が一人原画を務めた。作中で放送されている番組の映像となっている。B級映画にも通づるシュールさとリアル調な動きの作画がそう感じさせたのではないだろうか。
竹内氏は近年では『リコリス・リコイル』#4(「さかな~」の回)の絵コンテ・演出を担当した。本作#14ではその竹内氏が原画として参加し、芥見先生もコメントを寄せた。

 


#7

 

 

いわゆる"板野サーカス"ですが
世代的には村木さんのタイミングに馴染みがあります!!

 

 

"板野サーカス"とは、板野一郎氏が生み出した演出技法、及びそれを取り入れたシーンのこと。戦闘機やミサイルなど高速で動く物体をカメラで追従することで、画面の奥行きや臨場感を出す。
"村木さん"とは村木靖氏のこと。板野氏自身が板野サーカスの使い手として認めているアニメーターの一人。芥見先生は1992年生まれのため、"世代的には"ということで、恐らく『交響詩篇エウレカセブン』シリーズで村木氏の担当シーンを目にしたのだろう。公式ファンブックでも見返しているロボットアニメの一つとして挙げられた作品でもある。

youtu.be



#9

 

 

リップシンクバチバチにはめていて興奮したぜ!!

"リップシンク"とはキャラの口の動きとセリフを合わせる技法のこと。通常では作画コストを抑えるために開いた口、閉じた口、やや開いた口など3種類程度の形で表現されることが多い。そんな中でセリフの発音に合わせた口の形や動きにすることで、ここぞという場面での重要なセリフを強調できる。



#10

 

 

多分カラースクリプトって役職の人が決めてるんだぜ!!

 


”カラースクリプト”とは、シーンに応じた色彩やライティングをイメージボートを元に設計する役職のこと。監督や演出、美術、色彩設計など各担当者と調整した上で行われ、監督や演出が持つイメージを早い段階で可視化し共有することで、完成画面に反映しやすくなる。TV作品でも取り入れられるのは近年の動きであり、どの作品おいても必ずしも存在する役職ではない。なお、実際に制作素材に着色するのは仕上げという別の役職である(色彩関係には他にも色彩設計や色指定といった役職も存在するがここでは説明を割愛)。
本作のカラースクリプトゴキンジョが担当している。過去に手掛けた作品には、『薄明の翼』(2020年)、『SPY×FAMILY』OP2(2022年)などがある。

gokinjyo.fun

 

#15

 

 

バーディー世代の芥見にめちゃくちゃ刺さるカットがあったんですが野暮になるので言いません。


バーディーとは公式ファンブックにおいても取り上げられたTVアニメ『鉄腕バーディー DECODE』のこと。第1期が2008年、第2期が2009年に放送されており、それを1992年生まれの芥見先生がリアルタイムで視聴したということは、当時高校生である。
本作におけるオマージュと思われるカットは本話数のみならず、後の話数にも存在する。因みに該当カットの原画は下のGIFからそれぞれ『呪術廻戦』#39が渡邊啓一郎氏、『鉄腕バーディー DECODE:02』#12が松本憲生氏、『呪術廻戦』#40がグレンズそう氏、『鉄腕バーディー DECODE:02』#12が山下清悟氏である。





なお、現在では配信サイトが少なく視聴はやや難しいが、アニプレックスの公式YouTubeチャンネルにて、12月17日(日)まで期間限定で公開されているため、この機会にお見逃しなく。

youtu.be

 

 

最後に

 

上記以外にも、本編での禪院直毘人の術式"投射呪法"や中村豊氏を意識したようなアクション描写、週刊少年ジャンプでの新沼拓也氏へのコメントなどアニメーションに関連した話題は尽きない。今後もどんな話題が飛び出すか注目したい。

あと、漫画家やイラストレーターなど他の絵描きの業種と比較して、アニメーターは個人単位で触れられる機会が少ない。また、Xでのアニメーターの投稿に対しては国内よりも海外の方からの反応の方が多いように見受けられる。

それは具体的に誰がどのカットを担当しているのか直ぐに分からないこと*5が絡んでのことではあるが、今回の芥見先生のコメントなどで挙げられた名前から作画wikiや作画MAD、クレジットなどと情報を掘り下げていくと「この人は自分の好きなこのシーンも担当していたんだ」と発見があったりと面白味もあるので、是非とも自発的に興味を持つ人が一人でも増えてくれるといいなと。それはそれとして、芥見先生の投稿が#16以降はコメントではなく、イラストのみになってしまったのでコメントを心待ちにしています。


今回はこんなところで、それではまた。


©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
©椎名高志/小学館・超能力支援研究局・テレビ東京
©(C)2019 暁なつめ三嶋くろねKADOKAWA/このすば製作委員会
©武梨えり/一迅社アニプレックス
©ゆうきまさみ小学館/PROJECT BIRDY

*1:https://x.com/lk11122255/status/1733371310221516891?s=20

*2:現在はX(旧Twitter)を中心にSNSや動画サイトでの活動からアニメーターに抜擢される例は珍しくないが、2000年代当時は異例なことであった

*3:なお、3DCGだから低予算・簡単かと言えばそうとは限らない

*4:渋谷事変においてもモブは作画で描かれている

*5:特に近年はキャラ人気のある作品への配慮などによりアニメーターの個性が前面に出る作品が多くない傾向がある