あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメレビュー】王様ランキング #21

国民からも見向きされない非力な王子が壁を乗り越えて王様を目指す本作。物語として一つの区切りを迎え、映像面でも特にトリッキーだった本話数のレビュー。

 

 

王様ランキング #21『王の剣』
絵コンテ・演出:御所園翔太
演出補佐:田中洋之
総作画監督:野崎あつこ
作画監督:金採恩、荒尾英幸、山本祐子、鴨居知世、野田猛、島袋奈津希、野崎あつこ、御所園翔太、オ スミン、河内佑、土上いつき、桝田浩史
原画作画監督:斎藤美香、久慈陽子

 

 

はじめに

 

まずは本編に触れる前に制作スタッフについてざっくり紹介。御所園翔太氏は『呪術廻戦』#17にて初、続いて本作#7にて絵コンテ・演出を手掛けたアニメーター。原作有り作品の持つ世界観を尊重しつつ、映像化に当たってアニメーションとして創意工夫のある画面が見られる。先駆け的にBlenderを使用してきたが、本話数では一部に紙原画も取り入れられた。また、絵コンテ・演出のみならず原画でも多数のカットを担当。
#7では、ボッジがデスパーへの弟子入りし、その修行の成果が表れる本話数を担当したのは意図してのことかは分からないが、感慨深いものがある。

 


原画にはこれまでの話数でも印象的なシーンを残してきた今井有文副監督や土上いつき氏、佐藤利幸氏の名前も。
また、本作初参加としては、近年の作画回への参加率が凄まじいMoaang氏、先述の『呪術廻戦』#7にも参加していた徳田大貴氏、『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』でアクションディレクターを務めた大島搭也氏、『デカダンス』にてデカンダンスデザインを務めたシュウ浩嵩氏など。本社スタッフ以外にもフリーランスのアニメーターが名前を連ねる。クレジット面でも特別感のある回となっている。

 

 

物語面

 

本作の主人公はボッジであるものの、一連の騒動の黒幕であるミランジョや敵として立ちはだかる国王ボッスにも焦点が当てられた描写が目立った。

 

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時を経てミランジョと再会を果たすボッス。互いに想いが紆余曲折した果てに他人や国をも犠牲としてしまった過ち。それでも決して見捨てることはしない。もはや彼女自身の意志では自由に動かせない体、逸らされる目にも真正面から向き合う。自分とって掛け替えのない大切な存在を護るための戦い。たとえその相手が実の息子やかつての側近だろうと地に引かれた境界線。

 

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各々の思いを胸に、身を挺してボッジを護るよう前に出る四天王。OP1では離れた位置からボッチの背中を追ってきたが、今では頼もしくボッジの目の前に映る大人の背中。体格差のある四天王とボッジの姿を同じ画面に収めるための広角の構図。

 

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決戦直前、脳裏に浮かぶはかつての父や弟と過ごした光景。魂は父親であろうと、その姿は紛れもなく弟そのもの。今回はかつてのリベンジマッチでもあるが、それは本心で望むことではないだろう。あるべき形に戻すための戦い。
上手側にボッス、下手側にはボッジ。優勢なのはボッスと思われていたが...。

 

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壮大な劇伴が鳴り止み一時の静寂が訪れる。漂う緊迫感。戦いの火蓋が切られ、ボッジの前に現れる生前のボッスのイメージ。その圧倒的な巨体を前に、迎え撃つボッジの表情に恐れや迷いはない。

 

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師匠デスパーから教わった活人剣を手に激闘を繰り広げるボッジ。ボッスのパワーに圧倒されつつも少しずつ確実にダメージを重ねていく。力量の差を素早さと弱点を突く攻撃で埋める。
このアクションパートは、あくまでイメージである意識を強めるためか、茶色がかったざらつきのあるルックの画面となっている。また、外野のセリフもほぼ無いため、テンポも損なわれず集中して観られる(直前の回と比較すると顕著)。

 

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勝敗は決した。一度見切ったはずの攻撃を避けられなかったのは、息子の成長を計り違えたからか。己の決意に迷いが生じたからか。下手側に移るボッス。
王であろうが地を這いつくばろうともミランジョの下へ。長回しでその姿をありのまま捉える。本話数ではボッスがミランジョの下へ行くタイミングが2度あるが、カットは割ってもその経過を省略していない。ボッスの物語でもあることの強調。

 

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終わりにするならせめて自分の手でと自暴自棄気味になるボッス。別れの挨拶も無い悲しい結末を迎えようとする。画面を圧迫する先端が砕けた混紡からは余裕の無い精神状態が伝わる。
ボッチに止められ少し冷静さを取り戻し、せめて体をダイダの元へ戻すことを願うボッス。意を決して自らミランジョの待つ影へ踏み入れる。

 

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王の剣で鏡からミランジョを解放するボッジ。王の素質を秘めた覚悟の表れ。自国の民でなくとも、護るために剣を手に取る。魔神からの解放を果たせなかったボッスの想いは息子が引き継いでいく。
一方、魔人に取り込まれたミランジョは行く末は...。

 

 

構図・レイアウト面

 

御所園氏が絵コンテ・演出を担当した本作#7でも見られた思わず目を引く画面の数々。

 

広角の構図

 

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広角のパースが効いた構図。画面手前にあるものは大きく、奥側にあるものは小さく映る。どこに焦点が当たっているのか自然に捉えられる。冒頭から映るその画面は、普段見慣れたものとは異なる感覚がフックとなり、期待感を煽られる。



本話数においてこうした構図は背景美術と作画のセルによって描かれ方が変わる。特に後者はアニメーションとしてキャラ共々動かす必要があるため、敢えて取り入れるならそれ相応の技量や演出意図が必要となる。広角の構図は、正面では映しきれない配置の人やもの、背景を見せる他、キャラの不安や焦燥感の表現などの演出意図にも使われる。本話数では、自国の王ではなく倒すべき相手として立ち塞がるボッスの威圧感を強調させる。また、ボッスと再会するミランジョの想いが反映されているように感じられる。ただ、椅子の下にカメラを置いた意図は..正直謎。

 

 

ロングショット

 

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混紡を振り下ろす直前のボッス(に近い)目線。肉眼で捉えられない極端な体格の大小関係。ボッジから見たボッス、またはその逆それぞれ平等に映すのは、このエピソードにおける主人公が両者であるということだろう。


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ボッスの攻撃で人の何倍もある城壁が崩壊。城壁側に焦点を当てたいための引きの画面。直前の寄りよりも、比較的に戦闘の規模が伝わりやすい。

 

 

アイレベル

 

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ボッジに合わせたアイレベルのレイアウト。体格が異なる四天王の体の隙間を縫うように配置されている。4回立て続けにカットを切り替える上で、単調さのないバリエーションでありテンポも損なわない。

 

 

作画面

 

キャラ数の多さや物量のある戦いの規模にもかかわらず、全編に渡って見所アリ。これまでもOPEDから本編まで思わず目を引く映像は多かった中、物語の最終局面を飾るに相応しいものとなっている。

 

アクション

 



御所園氏のパート。城の壁面を足場にした身軽なボッジならではのアクション。物量のある背動の中、ボッスの攻撃を目視しつつ、城内の壁で突入した勢いを殺して体勢を立て直すというボッジの一連の行動が臨場感を高める。

 

 

大島氏のパート。ボッスの木製の棍棒や筋肉隆々の肉体を足場に、自身がアクションを描く上で多用する背動を如何なく発揮。細い線で表現された凹凸を流線に活用しスピード感を出している。
かつて絵コンテを担当した『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』#8においては、御所園氏がゴルゴーンの体の上を走る牛若丸を描いており、本話数ともシチュエーションが似ている。そのお返しとも言える割り振り。

 

 

オバケはデフォルメが効き、線の数も少ないキャラデザインだからこその表現。これまでの回でも見られたが、アクションを描く上で躍動感を強めるために一役買っている。


アクションではピークとなる回なだけに他にも見所多し。また、今井氏が『進撃の巨人』以降、『Fate/Apocrypha』#14などに続き、本話数でも巨人アクションを担当しているといった割り振りもまた面白いところ。

 

 

表情

 

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ボッスの目に映るのは父を越えようとする息子、その息子に仕えるかつての側近、自分が救うべき存在の姿。内なる想いが複雑に入り混じる。絶対の王者として君臨した人物が浮かべる苦悶の表情。

 

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ボッジの剣が放つ光が光源となり生まれる目のハイライト。それは息子の成長を目の当たりにした喜びでもあるように映る。目で捉えても動きが追い付かないボッジのスピード。

 

 

最後に

 

諸々あって放送から間が空いてしまいましたが、せっかく途中までは書いていたので投稿した次第。

元々、御所園氏がTwitterで第2クールも参加している旨のツイートはしていた中、まさかこんな重要回を担当していたとは。
本話数を含めて2022年冬アニメは、普段は原画を担当している若手の絵コンテ・演出回がどれも輝いていて眼福でした。魅力的な作画そのものはもちろんだけど、それを最大限に活かせるかは設計工程である絵コンテ・演出次第なんじゃないかと改めて思ったり。


今回はこんなところで。それではまた。


©十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会
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