あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメレビュー】ぼっち・ざ・ろっく! #8 -雨上がりの希望-

現在『まんがタイムきららMAX』にて連載中の同名漫画を原作とした女子高生バンドアニメ。今回はセルフタイトルのサブタイトルにして、一つのターニングポイントを迎えた#8のレビュー。特にライブ描写やひとりと虹夏の2人について焦点を当てていく。


ぼっち・ざ・ろっく! #8『ぼっち・ざ・ろっく』
脚本:吉田恵里香
絵コンテ:斎藤圭一郎
演出:瀬尾健
ライブ演出:川上雄介
作画監督:けろりら、Franziska van Wulfen、TOMATO

 

 

制作スタッフについて

 

まずは本題に入る前に主要な制作スタッフについて。

脚本の吉田氏は全話において脚本を担当。アニメのみならず実写ドラマやラジオドラマなども手広く手掛け、過去には『TIGER & BUNNY』にも参加した経歴を持つ。
本作は原作が4コマ漫画であるが、映像化に際してコマ間の補完だけでなく内容をより膨らませた作りであり、監督と共に物語面での貢献度が高いと思われる。


絵コンテの斎藤氏は本作でTV作品初監督を務め、#1、2でも絵コンテを手掛けた。ライブハウスなど狭い空間を広く見せたり、ひとりの孤独感を強めるように広角の構図が用いられることが度々見られる。
氏はこれまで『ACCA13区監察課』や『Sonny Boy』などMADHOUSE元請作品を中心に参加しており、本作にはそうした作品を共にした伊藤優希氏や佐藤利幸氏、そして今回の演出担当である瀬尾健氏らの名前もクレジットに載っている。絵コンテ・演出を手掛けた『Sonny Boy』#8や『ヤマノススメ Next Summit』#7 Aパートもオススメ。

 

 

ライブ演出は本作でライブディレクターを務める川上氏。初の役職のはずだがバラエティに富んだ引き出しの多さに驚かされる。一体何のライブ映像を参考にしているのか気になるところ。
直近では本作#5や『その着せ替え人形は恋をする』#8で絵コンテ・演出を手掛けた。その場にあるものや芝居作画を活かして臨場感・実在感を持たせた画面作りが印象に残る。


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作画監督(共同)を務めるはキャラクターデザインのけろりら氏。兼任の作画監督や原画でも毎話多数のカットを手掛ける驚異さを見せる。そもそもの本作制作に至ったきっかけも氏の提案であることをプロデューサー梅原翔太氏が明かしている。本作のキーパーソン、そして氏の代表作と言えるだろう。
因みに前述の他作品話数に原画で参加している点も人の縁を感じさせる。

 


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ライブ描写


それでは本題に入っていきたい。まずは結束バンドにとって初の観客前でのライブシーンから。ノルマのチケットは捌けたが、台風の影響で客入りが悪くアウェイの状況に。ピンチに陥る結束バンド。リアリティのあるライブ描写で登場人物の感情がダイレクトに伝わってくる。

 

1曲目『ギターと孤独と蒼い惑星』

 

1曲目は#5で初披露されたこの楽曲。だがメンバーの焦りから本来の実力を出せずに終わってしまう。本編を観たならば直ぐに「あっ」となるくらいボーカルと演奏のズレに違和感を感じたのではないだろうか。既に音源が存在するが、敢えてこのために別撮りした音源を使用する拘り様。このズレ方にはリアルでバンドを組んだことのある自分の古傷も痛む。
映像としても一部は#5と同じ構図を用いて対比的に見せている。例えば、出だしの虹夏では、姿勢とスティックを叩く力加減の残像表現で違いが見て取れる。他にもキャラの表情が分かりやすいが、ここで注目したいのはカメラワーク。#5ではカメラが動くのが計6カットあったのに対して、#8では何と演奏終了まで0カット。つまりFIX*1しかない。観客側から見て心が動かないライブであることを暗に伝える。



 

 

2曲目『あのバンド』

 

 

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作詞:樋口愛
作曲:草野華余子
編曲:三井律郎

2曲目は今回初披露の楽曲。
唐突に響き渡るひとりのギターソロ。他メンバーが驚いているあたり、当初の予定にはなかったアドリブパートなのだろう。ソロ演奏のため、ギターヒーローの本領を発揮。それに感化され合わさる4人の音。
空気がガラッと変わった思わせるのは演奏のみならず映像も。画面全体をぼかして鮮やかな照明を映えさせる中、ピントを調整してひとりを際立たせる撮影処理。ひとりの表情は相変わらず長い髪でほぼ隠れるが、それが却って底知れなさを感じさせる。1曲目より忙しなく動く手元も作画で描かれる。
今はただ、居場所を作ってくれたバンドのために己ができる全てを出し切る。下を俯いたままでも。暗闇で研ぎ澄まされた轟音が活路を開く。





目を閉じる 暗闇に差す後光
耳塞ぐ 確かに刻む鼓動
胸の奥 身を揺らす心臓
ほかに何も聴きたくない
わたしが放つ音以外


作詞は『進撃の巨人 The Final Season Part 2』EDで世界的に名を広めた樋口愛(ヒグチアイ)氏、作曲はLiSAや声優アーティストを中心にロック調の楽曲を提供する草野華余子(カヨコ)氏、編曲はOPEDの編曲も担当し公式で弾いてみた動画も上がっている三井律郎(THE YOUTH、LOST IN TIME)氏というアニメとロックを繋ぐ強力な布陣。
耳を劈くヒリついたサウンドと解像度の高い内向的な歌詞。1曲目と比べても、ひとりがギターヒーローであることを誇示するかのようなリードギターのフレーズが多い。サイケデリックなリフと息をもつかせぬサビの連続チョーキングが耳に残る。1番と2番でサビへの入りが違う曲展開も意外性がある。

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その他 ポイント

 

#5と同様にリアリティのある描写で臨場感を高める仕掛けの数々。なおかつ差別化も図れている。また、今回取り上げるのは原作にはなかったアニメオリジナル描写でもある。

まずはステージに焚かれたスモーク。細かい粒子に反射させることで照明を視認しやすくする役割がある。照明演出の必需品。照明付近に目を向けるとスモークが流れているのが分かるだろう。



エフェクター*2を踏む描写は今回が初めて(エフェクターが映り込むカットは#5にも存在)。青い筐体に黒いツマミの見た目、歪み系サウンドであることから、恐らくBOSS社のBlues Driver*3と思われる。プロのギタリストも愛用する定番機。
#5での右足踏み込みのように、ひとりの決意と存在感を際立たせるフックとなっている。



照明スタッフが手元のDMXコントローラーで照明を切り替える描写。ひとりのアドリブにも即時対応する手腕。今後スタッフの顔は明かされるのだろうか。



ひとりの主観で手元が映るカット。これまでにあったギターのヘッドやボディに置いたカメラとはまた違うテクニカルな見せ方。ギタリストが意図的に下を向くのはパフォーマンスないし、コードを押さえる左手を確認したり足元のエフェクターを操作するタイミングがほとんど。現実ではこの位置にカメラを置けないため、アニメならではの見せ方と言える(演奏者の頭部にカメラを装着すれば可能だが、まずライブでそんなことはしない)。星歌の指摘通り、客席をあまり直視できないひとり。その視点を通じて感情を没入させる。

 

 

ひとりと虹夏



本話数でライブパートと並び重点的に描かれたのが、ひとりと虹夏の2人。今回のライブを通じて、虹夏は以前一緒に演奏したいと口にしていたギターヒーローの正体がひとりだと気づいていた。だからこそ結束バンドに託した夢を語る。

このシークエンスでは、居酒屋の光源を背にした逆光や陰りの感情で影を落とすライティング、虹夏の去り際の動作は#5における自販機前でのやり取りと重ねてしまう。あの日は秘密にしていた虹夏の本当の夢。姉の分まで結束バンドを人気にし、姉が作ったライブハウスSTARRYの名を広めること*4。それを口にしたのは今のひとりとなら叶えられると確信したから。虹夏は台風が過ぎ去り澄み切ったからこそ広がる星空を見上げる。今直ぐには届かずとも確かにあるその光景へ手を伸ばすように。








ここで星空を見上げる描写は原作からあるのだが、ライブ終了後に雨が上がった描写はアニメオリジナル。
また、夢を語るシーンで原作からセリフの変更があったのが以下。原作ではぼっちの赤裸々な告白に対して虹夏が軽く受け流すギャグ寄りの描写なのだが、アニメではラストへの流れが途切れないようにポジティブな方向へ。原作から手を加えてより一貫性のある物語にした工夫が見られる。

ひとり「あっそれで全員で人気バンドになって・・・うっ売れて学校中退したい・・・」
虹夏「ははは 何か重いな~ でも託された!」


そして、ラストシーンへ。虹夏のセリフからセルフタイトルのサブタイトル『ぼっち・ざ・ろっく!』に繋がる。セルフタイトルは作中で基本一度しか使えない言わば必殺技であり、最終話で用いる作品も多い中でこのタイミング。本格的な結束バンドのスタートを告げるに相応しい。ひとりの表情に光が灯る。新たな幕開け。
因みに単行本1巻では、この話数で締めという区切りであり、サブタイトルはない。次回#9では、これまでと同様にASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲名に由来したものに戻る。

虹夏「でも私 確信したの!ぼっちちゃんがいたら夢をかなえられるって!」
  「だから これからもたくさん見せてね ぼっちちゃんのロック・・・ぼっちざろっくを!」




 

 

最後に

 


原作が緩めの4コマ漫画故の余白と自由度、実力派スタッフが結集し実写素材などを織り交ぜた斬新な映像表現で毎話楽しませてくれる本作。音楽要素も単なるパロディだけではなく、人気バンドマンからの楽曲提供にリアリティのあるライブ描写と唯一無二の立ち位置。間違いなく2022年を代表する一作となるだろう。最終話まで目が離せない。

本作は邦楽ロックとアニメが好きな自分にとって本当にたまらないアニメです。世に送り出してくれてありがとう...(まだ最終回じゃない)。

今回はこんなところで、それではまた。


©はまじあき/芳文社アニプレックス

*1:カメラを固定した撮影方法

*2:ギターやベース~アンプ間で繋ぐ音に効果を与える機器

*3:参考:BOSS社公式サイト商品ページ https://www.boss.info/jp/products/bd-2

*4:因みに元になった下北沢SHELTERは全国的に有名なライブハウス