お待たせしました後編です。こちらは主に投稿者向けの内容で、既にバリバリ作成している方もこれから作ってみようかな~なんて方も是非お付き合いください。
前編は以下のリンクからどうぞ。
前提として
作画MADのクオリティを上げるために
ここから本題。近年はTwitterをはじめとしたSNS上でアニメーターが担当パートや素材を公開することも珍しくなくなった他、sakugabooruの存在によりパート当てや素材集めのハードルが下がったことから、作画MADの投稿数が増えた印象を受けます。しかしながらその中には、「これは一体何を目的としたものなんだ?」、「ただ素材に音楽を乗っけただけではないのか?」といったものが散見されるのも正直なところ。
そこで今回の記事では、作画MADを作成するに当たって意識して欲しいことをずらーっと10箇条として挙げてみました。あくまで個人的な意見なので、「こうでなきゃいけない!」という訳ではないですが、是非参考にしてみてください。
構想面
①コンセプトとターゲットを明確に
「さて、作画MADを作るぞ!」と意気込んだら何から取り掛かるか。何事もまずは構想を練るところから。前編の記事内容を参考にしつつコンセプトを決めよう。また、ネットにアップロードする以上は視聴者を少なからず意識することが必要なので、業界人、作画オタク、一般アニメファン、etc. どの層に向けたのかによって映像のアプローチも変わってくる。
ここで例に挙げる以下の尾石達也さんの作画MADは、親和性の高い楽曲の曲調に合わせて似たシチュエーションのカットを繋げることで特徴を分かりやすくした上、ご本人の映像も加えたコアな要素も。投稿者が何が伝えたいのかが一目瞭然。ここまでのものが完成したならもはや言うことはあるまい。
素材面
②ノンクレジット版の使用
特にOPEDの場合、スタッフのクレジットが載っていないパターンが公開されているものがある。唯でさえ画面を覆ってしまうクレジット。本題ではない情報は極力画面から省こう。似たようなところで動画編集ソフトによるウォーターマーク(無償版によくあるソフトのロゴの透かしのこと)もできれば避けたい。アニメMVの歌詞は...仕方無し。
③ディレイを避ける
TV版には、ディレイ(動きや明滅の激しいシーンにかかる残像処理)がかかっているものもある。それはDVD・Blu-ray版では解除される場合がほとんどのため、投稿時期に拘りがなければ、素材にTV放映版を使用するのは避けた方が良いだろう。このディレイによって映像の魅力がプラスになることはまずない。以下の比較例を見れば、どちらが素材に適しているかは分かってもらえるだろう。
©AZONE INTERNATIONAL・acus/アサルトリリィプロジェクト
④画面比率・サイズは極力統一
画面比率として一般的な16:9や4:3に2.35:1(シネマスコープ)など根本的に比率が異なる組み合わせは無理に合わせなくともいいが、サイズが合っていないことにより周辺に黒い枠が残っている状態では視聴時の違和感に繋がる。これはsakugabooruから素材を取得した際にも起こり得る。動画編集ソフトの中には、サイズを合わせる機能があったりするので要チェック。
音楽面
⑤意図が感じられる選曲を
例えばそのアニメーターが好きなアーティストだったり、OPEDを担当したアーティストの別楽曲、はたまた映像とリンクした歌詞、etc. と何かしらの関連性を持たせたい。全く関連性のないタイアップ曲を使うのは映像とチグハグになりやすいので、避けるのが無難。また、歌詞がある楽曲だと自然と映像もその歌詞に引っ張られてしまうものなので、いっそのことインスト曲を使うのも手。
自分の好きな楽曲を布教するにしても、それは視聴者に良い印象を与えればこそ。今の時代、様々なサブスクリプションのサービスにより無料で幅広い楽曲が聴けるので、映像と親和性の高い楽曲を探そう。もちろん、楽曲在りきで映像を選ぶのもアリだ。
編集面
⑥担当アニメーター名や作品名・話数が分かるように
視聴者の誰しもがアニメーターや作画オタクではないし、そうであっても知らないことがあるのは当然。必要な情報は欠かさず載せよう。コメント欄での「〇〇秒のアニメって何?アニメーターは誰?」と視聴者の手を煩わせるようなやり取りを極力させない。
もし映像にテロップを載せることを避けたいならば、動画の概要欄やYouTubeであれば字幕を利用すると良い。この方法であれば後から追記や訂正が可能というメリットもある。
担当アニメーターについては、誤解を与えないためにそれが確定情報ないし推測なのか視聴者が判断できるようにすること。
あとはノンクレジットと変名の扱いに気を付けたい。クレジットに本名を載せないということはそれだけの理由(他社の拘束中に参加など)があるため、単なる記載漏れやご本人が公言している場合などに限ってその素材を使用するのが良いだろう。
⑦映像と楽曲のシンクロ
これは何も石浜真史さんがディレクションしたOPEDのようなものではなく、Aメロ・Bメロ・サビといったメロディーの切り替わりやボーカルの歌い出しなどに合わせたものを指す。特にJ-POPであれば、楽曲の展開が掴みやすくサビの入りに特徴的なフレーズや無音(ブレイク)があることが多いので、そうした要素に映像を合わせるとメリハリがつく。さらにテンポや音程の変化も意識できると尚良。楽器の音にボーカルの声、何らかの要素と映像のタイミングを合わせたい。爆発エフェクトやショックコマはドラムの音に合わせると良いアクセントになる。
これは普段目にしているOPやアニメMVを参考にするとイメージが湧きやすい。例えば以下のアニメMVでの1番の場合。
- 0:24までのイントロ:背景のみでキャラを映さない
- 0:39『損得の~』:ドラムのリズムパターンの切り替わりで動きのある靡き
- 0:51のBメロ『だけど~』:下がるイントネーションに合わせてパンダウン
- 0:56のサビ前『~君は何をみるの』:歌詞と合わせて目にズーム
- 0:58以降のサビ:背動アクション
ただ、音ハメを無理に行おうとして(演出意図がある場合を除き)映像の再生速度を原型から変更したり、楽曲が終わっても無意味に映像だけが流れるような編集はオススメしない。
⑧構成に緩急をつける
上記⑦とも関連のある項目になるが、いくら魅力的なアクションだからといって、MAD内の全てをそれで埋めてしまっては却って視聴する側も疲れてしまう。例えばテンポが速めの盛り上がるサビには背動アクションを持ってきて、大サビ前のテンポが落ちた静かなCメロでは泣き芝居を持ってくるなど。カメラワークを含めて動かすところとそうでないところ、アクションやエフェクトに芝居と大まかにカテゴライズしてバランスよく配置することを心掛けよう。特定のエフェクトといったシチュエーション別では難しいが、その中で似たスタイルのものを固めた構成などにしたい。
⑨違和感のないカット繋ぎ
一つひとつが魅力的なカットでもその繋ぎを失敗すると、視聴者の気持ちが乗り切れず魅力も半減してしまうもの。キャラやエフェクトの動き、カメラワーク、画面の色調が近いもの同士を繋げるとよい。あと、好みが分かれるところだが、繋ぎを重視するならカットの始めと終わりの一部を削ることも視野に入れよう。
以下に編集例を挙げる。素材AとBを使ってキャラの走り⇒静止という構成にしたい。
©2002 猫乃手堂・Studio Ghibli・NDHMT
©岩原裕二/スクウェアエニックス・DW製作委員会
ここでは編集で素材A・Bを繋ぐ際、それぞれどの画を選ぶのが相応しいのか考えてみて欲しい。
自分なら、素材A-3とB-2を選出。ここでポイントになるのはキャラの位置とポージング、そしてノイズとなる情報を画面から省くことの3点。
まず、素材Aではカメラがフォローしているためキャラは中央部分から動かない。そこで素材Bからは素材Aよりもキャラが進行方向前に位置する画を選ぶ。そうなると進行方向後ろの素材B-1は外れ、かといってB-3とB-4も前に進み過ぎているので、素材B-2に決定。
続いて素材Aからはポージングを意識。素材B-2は右手前・左足前であり、アニメーションとしての流れを意識して全く同じではなく直前のポージングのものを選ぶ。したがって素材A-3に決定。なお、素材A-4はポージングこそ近いものの、手前にスーツの男性が被っているのでアウト。個人的には見せたいカットから逆算で考えるとやりやすい。
ということで素材A-3とB-2で繋げた完成Ver.と素材AとBをただ繋げただけのVer.を比較。前者に対して後者はキャラの動きに連続性が感じられず、素材Aでのスーツの男性やトラックがノイズになってしまっているのが分かる。
もちろん、今回はあくまで一例でキャラやカメラの動かし方や速度、タイミングによっても左右されるので、多少要素が違えど最終画面で違和感の無いものに仕上がっていればOK。そもそも初見でコマ送りする視聴者なんていないはず。
投稿面
⑩1人でも多くの人に観てもらうための工夫
そして編集も無事に終わり、いよいよ投稿...とその前に動画のタイトルと概要欄の文章も忘れず考えておこう。せっかく拘って作ったものを投稿しても再生されないことには意味が無い。上記①で設定したメインターゲットが業界人や作画オタクなら、そこまで詳細にする必要はないかもしれないが、最低限どんな内容なのかは動画を観ずとも把握できるようにはしたい。一般アニメファンも含めるなら、タイトルだけで目に止めるのは難しいため、サムネイルや概要欄でフックとなる情報を入れよう。
以上が10か条。長ったらしい。
これからの作画MAD
ここでは自分が思う作画MADの行く末について触れたい。これからは資料映像よりは映像作品としての意味合いが強くなってくるのではないかと思う。というのも記事内で度々触れている通り、sakugabooruの存在が大きく起因している。より元の素材としての原型が残っている上にタグで近いカテゴリのものにも直ぐ目を通しやすい点が勝る。ただ、投稿数が膨大なタグの場合は一から全部を見ることは困難。
そこで作画MADは、飽和的本数のアニメの中で、視聴者が気になる作画を見付ける・思い起こすきっかけとしての役割が期待できる。担当アニメーターと作品名・話数の明確化も元へと辿れるようにするため。
とはいえ、作者にとって自分が良いと思えるものを作ることも大切。何を重視して作画MADを作るのか、自分なりの拘りを見つけて欲しい。その拘りが作画をより魅力的に見せることもある。