あの月を飼う日まで

アニメ×邦楽ロックの感想ブログ、たまに備忘録

【アニメ感想】BORUTO 第189話 -作画回である所以-

さて、いよいよアニメBORUTOもようやくここまで辿り着きましたね。第1話に(青年姿で)登場してから実に187話分も沈黙していたカワキ。ついに彼のアクションが見られる、さらにはほぼ止め画の次回予告やTwitter公式アカウントによる前日告知に甲田監督のこのお言葉。この作品では異例のハードル上げで期待が高まる中、いざ蓋を開けてみると...?

 

 

 

 

BORUTO -ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS- 第189話『共鳴』

脚本・絵コンテ・演出:・・
キャラクターデザイン・作画監督:夘野一郎

 

まず初見の第一印象は、全部上手い!!

これまで第135話(ウラシキ戦決着回)や第151話(ショジョジ戦決着回)、第175話(ディーパ戦決着回)と作画的見所が多いアクション回は定期的にあったものの、絵コンテ・演出面で原画の良さを最大限に活かし切れていない、途切れ途切れのチグハグさを感じられたのが正直なところでした。

それに対して本話数では、自分がたまに口にする表現ですが、全編に渡って作品の世界観を逸脱しない上での統一性・一貫性のある作画や演出が見られました。という訳で感想・考察をば。

 

 

原作に近いキャラクターデザイン

 

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ボリュームのある回にも関わらず、作画監督は何と夘野一郎さんお一人(単独作画監督は第11話以来)。そもそも夘野さんは本作のサブキャラクターデザインを務めている中、本話数ではアニメ全体でも珍しい個別でのキャラクターデザインを兼任。それにより、修正が入る前の原画の段階から作画監督が求める絵柄に近づけることできる。結果、キャラ作画には全編に渡ってコントロールされた統一性が見られる。また、そのデザイン自体も原作の絵柄に近いリアル寄りのもので、同様にリアル調で重みを感じられるアクションや芝居作画とも親和性が高い。

比較用として現在のOP8のキャプを上げたが、目尻の吊り上げや眉間周りの皺の追加、シャープな輪郭など違いがあり少々大人びた印象を受ける。その絵柄が画面の色味や撮影と相まって普段の回とはどこか違う、良い意味での"違和感"が生じる。そして、その感覚こそが作画回であることを物語冒頭から予感させる。

 

 

演出の一貫性

 

手のアップ

 

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物語のキーである楔(カーマ)がボルトとカワキの手に刻まれていることもあり、手を映すカットが度々あったのが印象的。近年、他作品でもよく見られる浅い被写界深度の画面により、自然と意識が手に向けられる。そして、体の部位でも描くのが難しいとされる手に注目させても、視聴者の熱量を途切れさせないだけの巧さがある。

 

 

相手に覆い被さるレイアウト

 

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画面内をより占有しているキャラが上の立場として、画面手前からカワキが我婁に覆い被さるようにフレームインするレイアウト。相手の姿は小さく映るよう、敢えてカメラは引き気味に。他には手で視界を覆うようなカットも。

優劣関係が逆転し、序盤のイキり具合が嘘のように怯え震える我婁、哀れなり。

 

 

対比描写

 

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顔を伏せる ⇒ 相手の存在に気付き見上げるという同シチュエーションの構図で、優劣関係の逆転を演出。優勢側が画面上部に位置するのもポイント。

 

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木ノ葉丸『・・・ど・・・・・・胴体を一撃で・・・・・・!!

・・・・・・何て奴だ・・・・・・!!』

楔の解放前後による力量の差。前半で我婁の体を貫けなかった一連はアニメオリジナル描写だが、貫通のインパクトをより鮮明に映すために効果的。因みに貫通させる際の構えて拳をぶつけるまではロトスコープだと思われるが、その"違和感"さえもインパクトを高めるために一役買っている。

 

 

密度の高いエフェクト 

 

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普段であれば描き手によっては浮いた印象を受けてしまうエフェクトの類だが、今回は一番派手なものを決着まで取っておく采配。リアル寄りな他要素と合わせて密度の高い爆発や煙、細かい破片

 

 

アニメオリジナル描写の数々

 

原作有りの作画回に欠かせないものと言えば、アニメオリジナル描写。単純にマンガのコマとコマの間を補完したものから、完全な追加描写まで、戦闘シーンが大幅に追加された中、今回取り上げるアニメオリジナル描写は以下の通り。

 

カワキ

 

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自分の体を分離させ、より広い幅で臨機応変に活用。原作では刃状への変化や直接破片を飛ばすのみだったため、実はさらに応用の利く能力であったことが分かる描写。初戦でこうした描写を見せることで、今後の戦闘にもこの戦闘スタイルを取り入れることが可能に。

 

我婁

 

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科学忍具化した腕を動力源としたり大柄な体格を活かした戦闘スタイル。第65話では中国武術をベースとしたように、今回はプロレスの技をベースとしたような体術(以下の技やラリアットなど)がよく見られた。

 

 

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平常時 ⇒ 激昂 ⇒ 蒼白 と戦闘状況に応じて変化。果心居士から単細胞と評されたキャラクター性とマッチしており、全編カラーであるアニメならではの表現。一時は冷静になったり。さながらアハ体験。なお、顔面蒼白時に胃液を吐いてしまうもアニメオリジナル描写で、その生々しさから危機感や絶望感が強く伝わる。

 

 

カタスケ

 

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薬剤を使用してカワキの体を解明する描写が追加。原作だとただ手で触れるだけだったので「やはり...天才か」状態だったのがより科学者らしく。これまでのリアル調な作画とは異なり枚数を飛ばしたコミカルな芝居もキャラクター性とマッチ。自来也辺りもやりそうな芝居で作品としてのリアリティがある。 

 


木ノ葉丸

 

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本話数においてボルトら第七班は基本的に無干渉だが、我婁の攻撃からボルトを庇う描写が追加。出番を増やしつつ、先生として部下を守る責任感を感じさせる。

 

上記はいずれもNARUTO、及びBORUTOの世界観を逸脱しないリアリティのある表現、脚本・絵コンテ・演出を手掛けた方の本作品への理解度が高いことが窺える。

 

 

参加スタッフについて

 

作画監督については、前述の通り。

原画には、藤澤研一さんに黄成希さんや田口愛梨さん、伊藤香奈さんなど暫く本編の原画には不参加だった方々が再結集。加えて、国内外の若手・新人の方が集う"NEXT GENERATIONS"に相応しい面々。第二原画にも目を向けると相当数。以前の第65話や第175話もそうですが、重要な回であっても経歴が浅い方を積極的に起用して修正を受けつつであっても経験を積ませるのは良い試みだと思いますね。

あと、特に気になるであろう脚本・絵コンテ・演出は所謂ノンクレジットであり、当人の事情を汲み取って探ることはしませんが、察しの良い人ならどなたか見当が付くのではないのかなと。

もちろん、作画回の実現には制作進行から背景美術に色彩設計、撮影など他のセクションの働きもあってこそ。

 

 

今後の展望

 

今後のBORUTOにおいても今回のような作画回が観られるとなると、かなりの希望が持てるなと。しかしながら、組織の下っ端である外陣の我婁戦でここまでのものを見せてしまったので、内陣戦ではそれ以上のものを見せないと示しがつかないですよね...という。自らの首を絞めるようなことにはならないことを願う。

 (以下、ネタバレのため反転)

この後は、同じく近接戦闘が中心のデルタ戦に、ナルト・サスケが共闘する殻のリーダーであるジゲン戦、新生第七班初陣のボロ戦が控えたまさしくボスラッシュ展開なので、熱量が絶えないものが求められるなと。個人的にはその内のいずれかで黄さんや藤澤さんの絵コンテ・演出回を所望。合間でグロスによるアニオリエピソードを挟むなどしないと実現するのは難しそうであるが。

 

 

余談

 

本話数はカワキの初アクション回ということもあって戦闘描写が大幅に追加され、いわば噛ませ犬である我婁が健闘を見せる。一時はカワキを追い詰めるも最期は華々しく散るこの上ない生き様。前話数の第188話でも掘り下げとして下顎はおろか、頭髪まで吹き飛ばされた過去回想までアニメで描かれた好待遇。個人的にはもう少し攻撃のギミックを追加しても良かったと思いますね。例:アームの伸縮、回転など。

あと、マイナス面とまではいきませんが、Aパート冒頭でアバンと同じシーンを繰り返したのは、あまり意味が無く蛇足に感じてしまいました(激突のカットのみで十分では?)。

もしも、本話数でハードルを越えられなかったと感じた方がいるのであれば、それはそもそもの題材の問題と言わざるを得ないかなと。前述の通り、ここで我婁を必要以上に強く見せてしまうと内陣との戦いに響いてしまうので。第65話のような大規模なアクションを望むなら今後に期待しましょう。

 

 

終わりに

 

ということで自分としては事前に上げられたハードルに見合うかなり満足度の高い回でした。もうすぐ放送4周年を迎える立派な長期作品でこうした作画回を観られたことは、いちファンとして幸福以外の何者でもないです。スタッフの方々には本当に頭が上がらない。ちゃんとこの作品の終わりまで見届けたい、そう思えるなと。

 

今回はこんなところで、それではまた。

 

©岸本斉史 スコット / 集英社テレビ東京ぴえろ